「豊洲市場は赤字!」を強調するカラクリ(その2):市場問題PTによる「豊洲市場は60年間の累積赤字額 約11,420億円」(追記アリ)

世の中には「豊洲市場は無駄にお金がかかる」というイメージを植え付けたい方がたくさんいらっしゃるみたいですが、小池都知事に任命された「市場問題PT」の一部の方々も次のような大胆な資料を作成していらっしゃいます。

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[2017年4月8日]東京都専門委員による説明と意見交換配布資料:豊洲移転案(PDF:2.2MB

上の画像は「いかに豊洲市場が問題を抱えているか」という内容を示した豊洲移転案の資料にある
「豊洲市場の60年 どうなっているか?」(P12)
「60年間の累積赤字額 約11,420億円」(P13)

と題されたグラフと表になります。

60年で1兆1420億円の赤字とは、本当にすごい大きい数字です。平均すれば年間200億円の赤字となります。
しかし、前回の記事にも記しましたが豊洲市場の単体の営業赤字は「年間27億円」程度だと考えられています。
60年そのまま27億円の赤字を出し続けたとしても1620億円なのですが、それだけでは到底届かず9800億円のヒラキがあります。

市場問題PTは、豊洲市場の抱える隠された巨額な赤字を発見したのでしょうか?
それとも「豊洲市場は赤字」というイメージを植え付けたいという気持ちから、大げさな数字を書いただけなのでしょうか?

そのあたりに注目しながら資料を見ていきましょう。

表の再構築

驚きなのは、P12の表からは「11,420億円」が読み取れません。 ヽ(・ω・)/ズコー

表にはH30〜H90まで単年の数字が7つ並んでいるだけなので、そもそも「約11,420億円」が何の数字を計算した結果なのか資料から直接読み取れないのです。

そこで、表の再構築を行いました。

H30〜H40の表の中身

H30〜H40の内訳はP.11に掲載されています。

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この資料の元資料は、第5回市場問題プロジェクトチーム配布資料:(資料3)中央卸売市場提出資料(豊洲市場の事業継続性)(PDF:1.3MB)のP19

その他の仮定

また、この資料より次のような仮定をしていると考えられます。

  • (P10)売上高割使用量収入→5年毎3%減=(P12)売上高割合使用量が10年で2億円ずつ減少
  • (P10)各市場の整備・改修費→年50億円=(P12)豊洲市場の建設費を除く減価償却費が、10年で30億円ずつ増加
再構築①

上述した内容で、改めてH90までの試算表を作り直してみました。
(全部載せると見えなくなるので、H40以降は10年ずつ)

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分かりやすいように、H30〜H90まで61年の合計値も載せてみました。
(最初から載ってないことが問題なのでは?)
これを見ると、
・営業損益:-14,196億円
・経常損益:-12,303億円
・当年度純損益:-9,494億円
・減価償却を除いた経常損益:-686億円
・減価償却を除いた当年度純損益:2,123億円

と、彼らが主張する「豊洲市場の累積赤字11,420億円」のような数字が出てきます。

…最後の「減価償却を除いた当年度純損益」は2,123億円の黒字ですね?
これは中の数字を調べてみる必要がありそうです。

グラフの一番右の数字に対応させた説明が↓です。

①豊洲市場の開場整備のための収益(築地市場跡地の処分収入:744億円x5年など)

H31〜H39までを表示したことで分かると思いますが、市場PTのH90までの試算では築地市場跡地の処分収入が表から隠されていることが分かります。

②豊洲市場の開場整備費(71億円x51年)

表から豊洲市場の開場整備の減価償却費が71x51=3621億円計上されていることが分かります。

しかし、同じ資料の次のページには、減価償却対象は3050億円と記載されています。

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3621-3050=471億円も余分に計上されているんですね。
(ページの前後で調整されてないことも驚きですが)
(辻褄が合わなかったから、表の合計値を載せなかったのかもしれない)

③豊洲市場の開場整備費以外でH30に想定されている減価償却費

H30の減価償却費109億円のうち、豊洲市場の減価償却費が71億円だそうです。
つまり、残りの38億円の減価償却費が赤字として61年間累積しています。

しかし61年間の減価償却ってなんでしょうか。国税庁の耐用年数表を見るとわかりますが、最も長いRC造の建築で50年。給排水設備などでも15年です。

耐用年数(建物・建物附属設備)

ここでも、よくわからない減価償却費が最大で38x61=2318億円も計上されていることが分かります。

④豊洲市場の開場整備費以外でH31年以降の減価償却費の増加分

豊洲市場の開場整備費以外の減価償却費が、H30からH90まで約3億円ずつ減価償却費が上昇しています。
これは61年間で38→221までの183億円の増加なわけですが、この増加分だけで合計5673億円という莫大な赤字になっています。

つまり、この資料では豊洲市場の整備費とは全く関係ない赤字を5673億円も計上しているのです。

ところで、この5000億円を超える莫大な減価償却費は一体なんでしょうか。
確かに、H40までの試算をみるとH30-H40で33億円上昇しています。

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同じ条件をH90まで適応しているのならば、H30-H90で183億円上昇していてもおかしくないと思うかもしれません。   

しかし、残念なことにこの仮定は大きく間違っています。 先程述べたように、この毎年3億円の上昇は「年50億円の建設改良費」と関係があります。
この50億円も当然減価償却という形で処理されることになるのですが、当然償却期間があるのです。

50億円を年3.3億円で償却すると、15年。つまり15年の償却期間になっているのですね。

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そして、毎年50億円の建設改良費を15年の償却期間で減価償却にまわすと、次の表のように「50億円で頭打ち」になります。

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従って、H30-H90までの減価償却の上昇は「H45までは毎年3.3億円ずつ50億円まで上昇。それ以降は同じ」というのが正しい数値になります。

この資料を作った専門家は、H40までの資料を見て「毎年3億円上昇」だと勘違いしたんでしょうか。そんな専門知識でお仕事はやっていけるんでしょうか…

減価償却費の計算間違いによる差額

H30年以前の減価償却費38億円の扱いが難しいですが、ざっくり1000億円(38億円x26年)として仮定し、減価償却費を計算し直してみました。

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この豊洲市場の開場整備費3050億円は予算を確保済みで、H30以前の整備費は既に支払い済みでしょうから、減価償却費を計上することにあまり意味は無いはずなんですけどね…。

表の修正

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単純に、東京都の11市場において
1:営業収益160億円に対して、人件費などを200億円、60年間支払い続ければ2400億円の赤字になる。
2:毎年50億円の建設改良費を60年間支払続ければ、単純計算で3000億円の赤字になる(減価償却費ベースでは合計2651億円。残りの349億円は先送りされているだけ

そもそも、豊洲の赤字は年27億円らしいので、それだけ取り出しても27億 x 60年=1620億円です。
豊洲市場の赤字を批判するなら最初からこの数字を用いればよく、わざわざ計算間違いをしてまで「累計赤字 11,420億円」と書かなくてよかったんじゃないんですかね…

グラフの修正①

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ものすごい減少していたグラフは何だったんですかね…

グラフの修正②

ちなみに、上の左側のグラフではH26→H30が一年刻みなのに対して、H30→40だけ10年刻みになってしまっているので修正しておきましょう。

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このグラフを作るのに都の税金が使われていると思うと泣けてきます(´;ω;`)

結論:市場問題PTは都税で仕事してるのだから、計算間違いがなく読み手に伝わる資料を作ろう

ということで、市場問題PTの作成した豊洲移転案のP11,12の2枚を見てきたわけですが、この資料は終始こんな感じです。
例えばP15はこんな感じ。

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数字のないグラフに文字と矢印だけという衝撃のグラフ。
何度も言いますけど、これ小池都知事が設置した都の専門委員会で、都税を支払って作られてるグラフですからね
しかも内容としても間違(以下略)

この資料からは市場問題PTの座長の小島氏が、豊洲移転を取りやめて築地改修を行いたいという個人的な気持ちを持っていることはよく伝わってきました。
しかし、せめて計算間違いがないか確認したり、読み手に伝わりやすいように表やグラフを調整するなど、資料としての体裁は最低限ちゃんとして欲しいと思いました。

他にも

  • 「60年間売上が下がり続けたら…」なんて無駄な仮定して1兆の累積赤字と捏造した結論が「11市場を順次売却する」なんだけど、勝手に他の市場も巻き込んでめちゃくちゃなこと言ってだいじょうぶなのか
  • 当然豊洲市場の27億円の赤字はなんとかするべきだけど、そのビジネス的な検討は誰がするのか。市場問題PTはしないのか(海外市場とか実際どうなんだ。可能なのか。そっちを調べる方が有用じゃないのか)
  • そもそも市場問題PTは、なんで移転延期に伴う都税の支出を検証してないんだ(同資料P8。+αとか書いてるけど隠したいのか?)

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  • なんで無料でこんな資料の間違いを検証しないといけないんだ。俺にも都税を払ってくれ!

などなど思うところはたくさんありますが、長くなりましたのでこの辺で。

ーーーーーーーーーーーー追記2017/04/24 10:00ーーーーーーーーーーーーーーー

築地改修案にも同じようなH90までの表があったので見てみたのですが…
1:豊洲移転を中止しても3050億円の減価償却費は消えないが、なぜか計上されていない。
2:豊洲移転案ではH90まで上昇していた年3億円が、築地改修案ではH50で止まっている。

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これは本当に減価償却費について知らない人が資料作ったんじゃないんですかね…

あ、ちなみに「人件費、管理費・業務費」も間違ってます。(というか仮定がよくわからない)

謎が多過ぎる…