消費者の保護と業界の保護は違う、という話 -民泊サービスの法制度について-

Airbnbに代表される民泊に関係するこんなニュースが。

www.fnn-news.com: 「民泊」規制緩和に反...

いわゆる「民泊」の規制緩和に反対する、全国の旅館やホテルの営業者、およそ1,000人が、東京都内で決起集会を開いた。
政府は6月に、「年間の営業日数を180日以下」にすることなどを条件に、民泊解禁などを盛り込んだ、規制改革実施計画を閣議決定している。
集会で、業界団体などは、「民泊の営業日数は、1年に30日にすべきだ」などと主張したほか、「民泊への規制緩和は、東京オリンピック終了後は見直すべきだ」などの意見が出た。

民泊の営業日数に制限を設けるべき理由は何だ?

厚生労働省から発表されている資料を見ると営業日数に関わる内容としては、以下の文章が見つかります。
参考:厚生労働省「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」

年間提供日数などが「一定の要件」を満たすこと。
「一定の要件」としては、年間提供日数上限などが考えられるが、既存の「ホテル・旅館」とは異なる「住宅」として扱い得るようなものとすべきであり、年間提供日数上限による制限を設けることを基本として、半年未満(180日以下)の範囲内で適切な日数を設定する。なお、その際、諸外国の例も参考としつつ、既存のホテル・旅館との競争条件にも留意する。

営業日数の制限を設ける理由は既存のホテル・旅館業者に配慮するため、と解釈できます。

営業日数が規制されるということは、民泊で商売を行おうとする人にとって売上に制限が設けられることに等しい訳です。営業日数が30日なんてことになれば、既存のホテル・旅館が80%程度の稼働率で商売をしているのに対して、民泊業者はどんなにがんばっても1/6しか稼働率を確保できないとなれば、そもそも商売として成立しないでしょう。

「住宅の活用」が民泊流行の理由ではない

なぜ営業日数の制限を設けて既存業者を保護する、という妥当ではない内容が検討されているのか。
先に上げた検討会の資料を読むと「既存の住宅ストックを活用する」というお題目が非常に大事にされているのが分かります。
つまり、「民泊は個人が住んでいる住宅を観光に有効利用するサービスであり、商売のためではない」という意識があるわけです。
しかし、善意でちょっと家を貸すという話だけでここまでAirbnbが世界で流行しているわけではないでしょう。

  • ネットで物件を確認して申し込める手軽さ
  • ホテルのような画一的ではない宿泊環境
  • ホストユーザーごとに異なる宿泊体験

簡単にいえば、ホテルや旅館じゃ満足できないからAirbnbが流行するわけです。小難しく書けば、これまで「大衆宿泊施設」として画一的に扱われてきた観光客が、情報化社会になり「自分だけのオリジナルの観光体験を得たい」という欲望とセットになることで求められたサービスが民泊なわけです。

それを政府側が「家に人を泊めてお金を稼げる」という安易な考えで制御しようとすれば、必ず制度に穴ができてしまうでしょう。

守るべきは消費者であって既得権益ではない

営業日数を規制することと、民泊施設を利用する消費者を保護することは、根本的に異なります。
民泊施設の安全や衛生をしっかり確保したいのならば、民泊でしっかり収益があがる構造をホストユーザーに提供すべきです。
営業日数が規制されれば、売上が少ない中で収益を上げるために、ホストユーザーは施設側にお金を掛けなくなり、消費者がより危険にさらされることになります。

既得権益を守るために安易に新サービスの売上を規制するような対策をとれば、結果として消費者が損をすることになりかねないのですよね。厚生労働省はそこに留意して改めて制度を練りなおして欲しいと思います。

余談:一番に気をつけなければいけないのは住民が都市から締め出されること

また今回発表された資料の中には、観光地に民泊が集中することで住民が都市から締め出される可能性に歯止めを掛けるような規制が盛り込まれていないように思いました。
以前に書いた記事でも少しだけ触れましたが、観光都市では民泊事業者が都市の住居を多数借り上げることで都市圏の家賃が上昇し、元から暮らしていた住民が払えない金額にまで家賃が上昇してしまう、という可能性があります。
現在の民泊制度の方向では「マンションの賃貸主が民泊事業者になれる」わけですが、この辺りはもう少し規制を強めるべきではないかと個人的に思いました。