ベビーシッター事件の裁判が10日から始まる

2014年3月に埼玉県で起きた2歳の男児の殺害事件の裁判員裁判が10日から横浜地裁で行われるようです。

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母親は預け先の「正体」に気づけなかったことを今も悔いている。事件前に物袋被告に子どもを預け、トラブルになったことがあった。事件時は、メールでのやり取りから、預かってくれているのは女性だと思っていたという。
飲食関係の仕事をしていたシングルマザーの母親は、インターネットのベビーシッター紹介サイトを通じ、女性に渡してくれると思って別の男性に男児とその弟を預けたところ、物袋被告に引き取られた。

f:id:arch-database:20160602112738j:plain ※画像は過去の毎日新聞のニュース記事より転載

■システムでは犯行を防げなかったのか

裁判で争われるのは加害者被告の罪ですが、裁判の経過はITに関わる人間として注目すべき事件です。

詳しい事実は裁判で明らかにされると思いますが、被告が5つの匿名を用いてベビーシッターのサイトに登録していたこと、母親と直接会ったのは別の男性であったこと、過去にトラブルが起きていたこと…。このような出来事をシステムに反映して事前に事件を防げなかったのか、どうしても考えてしまいます。

個人認証が必要な登録システムや、トラブルなどを反映できる評価制度など、現状でも考えられるシステムは幾つもあります。また、2014年に厚生労働省にて「児童部会子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」が設置され、ベビーシッターのマッチングサイトにおいては行政でベビーシッターの届出制度を設置するべきではないか、という提言が行われています。

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厚生労働省:児童部会子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会のページより一部資料抜粋

しかし当然、制度やシステムの構築は費用が掛かります。「命はお金に代えられない」とはいえ、サービスから利益が上がらないのであれば低価格でベビーシッターサービスを利用することが難しくなり、それはそれで社会的に不利益です。

厚労省が「子どもの預かりサービス」で委員会を設置~秋にも取りまとめ~

また「ベビーシッターで事件が起きたので登録制にする」というような、各分野で登録制を行っていたのでは、それぞれの分野で登録制が必要になってしまいます。ベビーシッター資格というひとつの分野の問題ではなく、「信頼できる個人」をどのように特定するのか、というシステムが社会全体で求められているともいえるでしょう。

■各サービス業界ごとではなく、IT業界内でのレイヤー設定が必要

ITの活用としてwebサービス事業を行うと言っても、ベビーシッターなどの身体接触があるサービスとフリーマーケットのような商品販売サービスでは求められる安全性に差があります。
以前から書いていますが、安全の必要性の階層構成を一度しっかりと明文化し、事業者に対して行政側が提示する必要があるのではないかと思います。

当事者ではなくとも今回の悲惨な事件としっかりと向き合い、今後のサービス設計の教訓としてより安全なアーキテクチャの構築をできるように、裁判の経過には注目していければと思います。