東工大蔵前会館 TOKYO TECH FRONT」
  新建築 2009年 06月号 [雑誌](sk0906)
  敷地面積:3367qm/建築面積:1973qm/延床面積:4076qm

 この建築は、坂本一成氏による初めての居住のない建築です。坂本氏の過去の建築やこの建築の設計意図については作品集や雑誌の方に書かれているため、ここでは雑誌の方ではあまり触られていないこの建築の素材や構法の扱いについて考えてみようと思います。
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坂本一成/住宅坂本一成 住宅-日常の詩学建築を思考するディメンション―坂本一成との対話新建築 2008年 07月号 [雑誌]日本の現代住宅〈1985‐2005〉
 この建築は、鉄、ガラス、コンクリート(押出成型セメント板)という素材が多用されており、またプラザを覆うルーバーや3、4階のファサードに取り付けられた飛び出す長さの異なる小庇とライトシェルフなど水平方向に強調されるような部材の使い方をされています。またリブ付きPCa床板を用いて大梁なくす、空調を壁から供給するなどして、スラブ厚を抑え極力建築の裏になる部分を減らす努力がなされています。これは一見するとモダニズムの指向した(ガラスの多用やユニバーサルスペースといった)抽象性の高い空間と考えることができます。
 しかしここで着目したいのは、最近の他の建築家が目指しているような抽象的な空間の指向と異なる空間が表れていることです。
 どのように異なるのかを具体的に考察します。まず、抽象的な空間ですが、ふたつの水準があるように思います。ひとつは、ディテールに気を使い、そこを簡素にすることでインテリアに表れる線材を統一することによって達成される抽象性です。もうひとつは、最近の建築に見られる、その構造・構法を他の要素よりも大きな比重で扱う(主調とする)ことによってインテリアに表れてくる線材に序列を作ることによって達成される抽象性があります。このふたつを水準に建築作品を観察してみれば、多くの作品が当てはまると思われます。
 しかし、この建築では、ホールに剥き出しに表れている空調やルーバーを支える井桁の架構やその上のテントなど、ディテールはどこか簡素になりきれていません。またリブ付きPCa床板というかなり特異な構法や押し出し成型セメント板という統一された部材が用いられているにも関わらず、そのことが主調として表れてきていません。これは設計管理の精度が悪いということではもちろんなくて、建築の主調となることはディテールや構法といった部分ではなく、それらを全体の中でどのように関係づけるのかという、坂本氏の建築思想を表しているのだと考えられます。