UX論は間違っているんじゃなくて時代遅れなんじゃないの?という疑問

9月24日(土)に日本XPユーザーグループ(XPJUG)さんが主催するXP祭りというイベントにて「XP祭り2016:巷にはびこる間違ったUX論へのヘイトをぶつける集い」という面白そうなイベントが企画されているようです。

XP祭り2016:巷にはびこる間違ったUX論へのヘイトをぶつける集い(滝川陽一さん)

セッション内容
UX(ユーザーエクスペリエンス)には、様々な誤解・誤った認識が色々とつきまとっています(アジャイルと一緒ですね)。 本イベントは、そんな誤解に溢れたUX界の最前線で戦う二匹の獣が、日々ぶち当たる「誤ったUX論」に、憎悪と憤怒を以て日々のヘイトをぶちまけます。 我々は、そのあとに残った焼け野原から、一筋の光明を見出すことを目指しましょう。 (※見出せない可能性もあるのでご注意あれ)

非常に行きたいのですが、残念ながら都合が合わずにいけません…。
そこで、個人的に議論の俎上に上がればよいな、と思うことを3点ほど予めこのエントリに記載しておこうと思います。

1:誰のためのUXなのか

アジェンダにも「ユーザーのためにあるはずものが事業者のためのものにすり替わっていないか」と記載がありますが、この論点は非常に重要だと思います。
以前ブログにも書きましたが、具体的な例で言えば「退会」のルートをどのように作るのか、という点ですね。
ユーザーエクスペリエンスの視点からすれば、サービスを辞めたい時にストレス無くサービスから退会できるのが望ましいですが、事業者からすれば素直に辞められてしまっては困るわけです。

www.siskw.com

2:UXの時間射程

この話を少し拡張すると(前述のブログにも書きましたが)、ソーシャルゲームのガチャに課金をし過ぎてしまうといういわゆる「ソシャゲ問題」という社会問題と関わってきます。
例えば、「ユーザーが何度も引きたくなるような魅力的なガチャ表現」はその体験だけ切り出せばよいUXだといえますが、それによって自身の生活が圧迫されるほど何回もガチャを引いてしまい後悔するユーザーも多く存在します。
+ アプリで遊んでるその一瞬では魅力的なUX
+ 遊んだ後にお金を使いすぎて後悔するUX
というように、UXには時間の射程の違いによる価値観の違いが存在するわけです。
もちろん、後者はユーザーの責任の範疇でありUXデザインの範疇外である、という割り切りもできるかと思います。

しかしポケモンGOのように、後者のようなユーザーを増やさないために大量の課金をすること自体を難しくしているゲームも存在するわけで、その辺りをUXの価値観としてどのように考えるのかは興味深いです。

3:UXデザイナーの業務範囲に法律は含まれるのか?

最後はUXそのものとは大きく異る話ですが、UXデザイナーの業務の範囲に、各種法律への対応は含まれるのか、という視点です。
例えば、次のような図があります。

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出典:「UXとは何ぞや? UXを高める武器を手に入れよう! ― 開発者は、いかにUXと付き合うべきか」(@IT、橋本圭一氏、2010)
J. J. Garrett氏によるThe Elements of User Experience(2000)を橋本圭一氏が記事中で書き直した図

この図を見ると「機能仕様」や「情報の構造」を決める要素としてユーザーニーズが存在しますが、2016年の現在においては、ユーザーニーズだけでなく(このブログで取り扱っているように)既存の各種法律や慣習もユーザーニーズと同様に機能使用や情報の構造に影響を与えるファクターとして存在しています。
確かに16年前ではユーザーニーズを検討しておけば十分だったと思います。しかし現在ではITサービスの社会的需要の拡大により、サービスと既存法制との接点も十分に検討すべき課題として挙がっていると個人的には考えています。
このような状況の中で、あくまでUXデザイナーの業務はUXだけに限るのか、よりよいサービス(の仕様書)を作るためにUXだけでなく法律や慣習まで業務範囲に含めていく必要があるのか、その辺りUX界隈の人たちがどのように考えているのか興味があります。

まとめ:UX論は間違っているんじゃなくて時代遅れなんじゃないの?

ここまで書いてきて、個人的にUX論に引っかかっている部分が明確になった気がします。

簡単に言うと、「ユーザー目線だけで仕様を決められない時代になったけど、UXデザイナーさんはどこまで検討してくれるの?」という疑問です。

もちろん法への対処は事業者が行うべき問題であり、UXデザイナーはUXを考えるから法律については事業者の法務部で検討してください、ということも可能かと思います。
しかし、情報リテラシの高くない一般の人にまでアプリやwebサービスや普及した時代になったことで、ユーザー目線だけでなく、そもそもの人権だとか消費者保護、身体の安全といった、これまで他業種が法律によって守っていた部分にまで影響を与えるようになっているのが2016年の状況だと思うんですよね。
そうした中で、これまでは「UXから考えよう」とやっていた部分に対して、「いや、それ既存の法律に違反してるかもしれないよ」という問題がついて回っているわけです。

具体的な話で言えば、Airbnbのように、サービスに登録すれば自分が所有している建物が勝手に貸せる状況は、所有者からすれば非常に優れたUXなわけです。短期・少額の貸出のために広告とか書類とかを用意する手間が省けるわけですから。
しかし一方で、建物が宿泊施設としての安全性を満たしていないとか、悪意ある利用者に建物を壊された時に損害が出るとか、IT化したことで、これまで法律で守られていた範囲にて問題が多発するわけです。
Airbnbはそのギャップを埋めるためにたくさんの施策を打ち出しているわけですが、そういった部分をサービスの企画段階から担っていくのは、いったい誰なんでしょうね、という疑問でした。

もちろん本当は法律さえ守れば良いという話ではなく、「そもそもなぜその法律ができているのか」という部分に踏み込んでビジョンを考える必要があるのですけど、それはまた別の話として。