今回のエントリはイベントの感想です
ただ販売前の書籍のため、自分の興味に引き寄せて書きたいと思います。
前回に引き続き、ゲンロンカフェにて行われた鈴木謙介氏と藤村龍至氏の対談についてのエントリです。イベントの内容としては、8月27日に販売される鈴木謙介氏の新著「ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで<多孔化>した現実のなかで」(AA)についての販売前解説でした。
インターネットに生まれた「空間」の取扱説明書
ウェブ社会のゆくえでは、次のようなことは「言ってない」です。スマホの普及でバーチャルとリアルの区別のつかない人が増えた。ソーシャルメディアに依存してしまうのは、その人の心が弱いからだ。#genroncafe
— siskw (@siskw) 2013, 8月 23
鈴木謙介氏は、イベントの冒頭で上述しています。これは、多くの人々がインターネットを使いながらも、それがもたらす現実から目を背けようとしているのを知っているからでしょう。それに対して鈴木氏は、多くの人々がインターネットを利用している現実を受け止め、それをプラスの社会観へと積極的に繋げられるように、と考えているように思えました。新著「ウェブ社会のゆくえ」は、改めて今回のイベント全体を振り返ってみて、自分の中では「動物化するポストモダン」(AA)「アーキテクチャの生態系」(AA)「神話が考える」(AA)と続く情報のデジタル化への「眼差し」を基点に、実社会(コミュニティ・まちづくりと呼ばれるもの)との接続を計るための思考ツールになるだろうと理解しました。
商圏か学校区か
鈴木:商圏規模が大切では。図では右上側。藤村:学校区範囲で地域性を再編していけるのでは。図では左下側。学校区と商圏。 #genroncafe
— siskw (@siskw) 2013, 8月 23
イベントの中で表れた鈴木氏と藤村氏のはっきりとした違いとして、コミュニティの単位が挙げられます。ショッピングセンターを中心とした商圏か、中学校を中心とした学校区か。商圏は、例えば柏市の商圏の場合、第1次商圏は柏市・我孫子市・取手市を合わせて人口約65万人で約230k㎡という規模感ですね。学校区は「近隣住区論」にその想定規模が記載されており、人口5000-6000人で約64㌶(0.64k㎡)というサイズになります。
商圏 | 学校区 | |
---|---|---|
人口 | 65,000 | 5,000 |
面積 | 230k㎡ | 0.64k㎡ |
※それぞれのスケール感の確認程度として受け止めてください。
参考1:「柏市商業実態調査」の報告書
参考2:wikipedia「近隣住区」
当然、はっきりと具体的な数字を想定されていないと思いますが、このような規模が双方の想定する生活様式の差として表れているのかなと。つまり、鈴木氏は「場への参加の自由(プラットフォーム)が担保される生活」(群全体の把握可能性が低い)を、藤村氏は「人が自分の役割を意識できる生活」(群全体の把握可能性が高い)を想定しているように思いました。新著によせて考えれば、商圏の規模の方が人の意味空間を「多孔化した状態」で維持しやすく、学校区の規模では人間関係がもう少し把握可能になり人の意味空間が扱いやすくなる、という感じでしょうか。
Twitterの実況では拾えなかったのですが、イベント中に鈴木氏が「秋葉原」に言及する時がありました。上記をそれと合わせて自分の興味に引き寄せて考えれば、「多孔化」は「スーパーフラット」と非常に近い考えなのだろうと思います。
鈴木氏と藤村氏の想定する生活像の差異の話は、2つ前のエントリ「日本の「市民空間」の特殊性について一連のバイト炎上事件から考える - architecture_database」の最後に書いたヨーロッパ型の市民空間と日本型の市民空間の差異とも関わっていると思います。
「働く人」を取り入れたまちづくりは可能か。
鈴木:山の上のシルバーカレッジは、男性コミュニティが強かった。これまでは、旦那が働いている間の主婦の居場所として地域施設が機能していた。これからはリタイア後の男性の受入が問題になる。男性は地域社会にうまく馴染めないかもしれない。地域とは違うフレームが必要。#genroncafe
— siskw (@siskw) 2013, 8月 23
少々蛇足になるかもしれませんが、最後に鈴木氏・藤村氏に共通して気になる点を指摘してみます。それは、ふたりの話からは「働く人」の気配をあまり感じないことです。上の発言も、街を利用する対象として主婦からリタイア組へという話でした。
かなりいろいろ意味が貼り付いてしまっていますが、実は「ノマド論」も多孔化した現実と関係しているはずですよね。個人的には、働くことそのものが街に対するフィードバックになるような「まちづくり」についても考えていきたいと思います。