International Architectural Education Summit その2

この会議の感想は以下のHPで見られました。
難波和彦+界工作舎「青本往来記」7月17−20日
telesco web 建築教育国際会議「建築教育と職能の世界標準化をどう考えるか」に行って来た by 鈴木明


それとは別に個人的な感想を。(以下、敬称略)

出席者の在籍大学

まず国際会議という名前なのに対して、ヨーロッパの建築家がほとんどいなかったことが気になりました。レジュメを確認する限りヨーロッパが確定なのは、オディル=デック(Odele=Decq)-Ecole Speciale d'Architecture(仏)とウォルフ=プリックス(Wolf=Prix)-University of Applied Arts in Vieenaの二人だけ。曖昧なのはアレハンドロ=ザエラ=ポロ(Alejandro=Zaera=Poro)-Princeton Uni./Berlage Institute(蘭)と、国はわからないけど国際建築家連合(UIA:International Union of Architects)からフェルナンド=ラモス(Fernando=Ramos)。それに対してアメリカからはUCLAなどから9人(ザエラ=ポロ含む)、日本7人(阿部仁史含む)、日本を除いたアジアから4人となっていました。

B討論会「グローバリゼーションの中での建築実務と教育」の感想

残念ながら途中入場でしたが、その感想を書きます。
B討論会では建築実務をテーマとした時に、山本理顕邑楽町の裁判を例に挙げて建築とそれを利用する市民の間にはある認識の違いが確実にあって、今後の建築教育ではそれに向き合っていかなければならないのではないか、という問題提起であったように思います。一方、清華大学教授であるウェイグゥオ=シューは、(3DCADを用いて)授業で学生とともに設計したもののうち、幾つかは実際に建てられている、という切り口で教育と実務を重ねあわせていました。UCLAで教鞭をとる阿部仁史もウェイグゥオ=シューと同様にスタジオが実施までするということでしたが、さらに加えて実際に設計するということだけでなく、例えば次回はディズニーと組んで授業を行う計画があることを発表していたように、建築が社会のどのような問題に対応しようとしているのかということまで踏み込んでいました。これは教育と社会の間に成立するベクトルの向きがスタジオの特徴になっている話で、たいへん興味深かったです。
ただ残念なのはその興味深い話は今回の会議のテーマではないそうで、3DCADの話しが中心でした。(どうやら前日の伊東豊雄の講演でもパラメトリックス=デザインの話が中心だったらしい)。ウェイグゥオ=シューが3DCADを用いることを強調していたように、プリンストン大学のスタン=アレンは学生が3DCADを利用する話、日本は後発国だから優位に3DCADを使えるんだという話に終始していて、それが実務や社会とどう絡むかという話には踏み込みませんでした。さらにその後のディスカッションにおいて、山本理顕が3DCADと社会を繋げる可能性があるのではないかとテーマを提起しても、マーク=ウィグリー、スタン=アレンの両教授は3DCADを日本も使うべきだという話に終始するだけで聞いていて煮え切らない議論となりました。
言葉が悪い私的な感想ですが、建築教育の世界標準化とは結局傲慢なアメリカ様が3D未発達な日本を啓蒙しにきたとも言えるような雰囲気で、非常に不快だったので午前の部だけで帰りました。

3DCADがもつ可能性

おそらくかなり政治的、お金的な要因を含んだ会議だったというのが行ってみた正直な感想です。ただ、日本が3DCADの後進国なのは事実であり、それによってどのような可能性があり、逆に可能性がなくなるのか、ということが議論されてもよい状況なんだと思います。鈴木明さんは、以下のように書かれていました。

建築教育の将来を考えるときに、日本の建築大学がやっておかなくてはならないことがいくつかありそうだ。1)アメリカの、いわゆるブランド大学の教育プログラムのチェックを怠らないこと。2)グローバルなプロジェクトを受け入れられる情報や人的ネットワークを備えておくこと。

http://event.telescoweb.com/node/9972

アメリカの、という部分が引っかかりますが、だいたいその通りだと思います。自分たちの考える建築像を常にアメリカやヨーロッパのプロジェクトと相対化して表現していかないとヨーロッパから輸入した建築という概念が一人歩きしてしまいかねません。実際、議論の中でも妹島和世桂離宮が同列に扱われていたのには衝撃を受けましたし。
少なくとも僕が留学していたヨーロッパの国では、CAD技術を学問として取り組む教授がいるところもありました。日本では、CAD自体を研究分野として考えている建築関係者はおそらくまだ少ないと思われます。(それを利用するかどうかは個人の問題として)CADをただの設計ツールとしてではなく、建築デザインと社会との関係を構築するツールとして捉える必要があるということ、これがはっきりとわかったことが一番の収穫だと思います。

世界建築会議

来年の9月末の一週間はUIA2011 Tokyoと銘打って、世界建築会議が東京で行われます。こちらもどうなるかわかりませんが、楽しみにしていたいと思います。