このような記事を見かけたのですが、根本的に建築基準法を誤解されている記事なので指摘をしてみます。
「建築基準法並みのルール」がシステム構築に適用できると思っちゃう人が「ITジャーナリスト」とか。link: 巨大化した「詐欺的」IT業界が、国民の生命や社会・経済を破壊する危険が現実味 | ビジネスジャーナル: https://t.co/xiZfO0ODpY
— Yukihiro Matsumoto (@yukihiro_matz) 2016年4月4日
記事の要約
- 受託型IT業は多重の下請け構造になっている。
- 発注者に仕様を定義する能力がなく、丸投げされた下請けの現場エンジニアに頼り切った実装となっている。
- IT、更にIoTは生活インフラと密接に関わるため、利用者の生命リスクに直結する。
- 法的規制がないから、しっかりと法整備をするべきだ。
筆者の言いたいことはよく分かる。特に3番目の生命リスクに対しては、過去に記事にしたベビーシッターによる幼児の殺人事件のように、社会を便利に提案されたITサービスが逆に生命を危険にさらすことがあることを、私たちは既に知っている。
しかし、この筆者の主張を「建築基準法並みのルール」でこの状況を規制できるかといえば、そうではない。
逆に、Matz氏が述べるように「『建築基準法並みのルール』がシステム構築に適用できない」かというと、それもそうではない。
なぜ2つの意見ともに否定できるのかといえば、基本的に建築基準法は禁止事項や機能指定の塊だからだ。
丸投げを禁止するのは建設業法
まず記事の筆者の大きな誤解だが、基本的に業者側の仕事の進め方を管理するのは建設業法である。 例えば丸投げの禁止に関しては、建設業法の第22条に記されている。
(一括下請負の禁止)第22条
①建設業者は、その請け負った建設工事を、如何なる方法をもってするを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
②建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負つてはならない。
③前二項の規定は、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には、適用しない。
また、日本には業種を問わず下請法がある。
本来ならば下請法の範囲でIT業界も規制されれば良いと思うのだが、筆者の述べるように下請けへの業務の丸投げがひどく、またそれが多くの労働者の生活を脅かすような状況があるのならば、IT業界自体に建設業法のようなルールを作るのが望ましいのかもしれない。
建築基準法を守らなければいけないのは「建物の所有者」
また、よく誤解をされている点として挙げられるのは、建築基準法を遵守しなければならないのは建物の所有者だということだ。
新しく建物を建てる際には指定確認検査機関に申請をする必要があるが、これは所有者の名義で提出される。では建築士は何をする人なのかといえば、弁護士などと同様に資料を作成したり手続きを行うための代理人である。そのため仮に違法に建物が建てられば場合、処罰されるのは建物の所有者であり建築士ではない。
IT業界においても、「サービスを提供している事業者」と「サービスを開発した事業者」を分けて罰することができるのならば、建築基準法のような法律は意味を成すだろう。
建築基準法は規模と用途で分類して適応される
建築基準法は増築に増築を重ねて運用されているため全体を把握するのは非常に困難なのだが、全ての建物に一律に制限を設けている法律ではない。
例えば、「敷地内の避難上及び消火上必要な通路」を見てみよう。
ざっくりと取り出すと、次のような場合のみ敷地内に避難通路を決まった幅で作る必要があるわけだ。
- 劇場、映画館、集会場、病院、ホテル…といった建物の用途
- 階数が3以上
- 窓のない居室がある建物
- 延べ面積が1000㎡を超える建物
- 大規模な木造建築
- 地下街
これを参照にIT基準法を考えるならば、そもそもシステムの分類が必要になる分けだが、どのように分類すべきなのか。本来はその分類に対して思考を巡らせる必要がある。
この辺りは込み入った話になるのでまた別に記事を書ければ。
建設業界を参照するなら設計者と実装者の分離が必要
つまり建設業界は建築基準法と建設業法という、企画側と製作側それぞれに対して法律を持っている。もしこれを参照にするのならば、IT業界においてもサービス事業者と開発会社を分離し、責任区分を明確にする必要があるだろう。(サービス事業者が自身で開発している場合は、あくまで建築基準法的な法律だけを適応すればよいのかもしれない)
時間がきたので今回はこの辺で。