逃げ地図
「逃げ地図の作り方」
日建設計の社員の方たちがボランティアで活動されている「逃げ地図(避難地形時間地図)」というアイデアの講演を聞いてきました。正式なレクチャータイトルは:
「『逃げ地図』東日本大震災をきっかけに開発され、Hondaのナビアプリにも搭載された地図とそのアイデアについて」
逃げ地図は、昨年はグッドデザイン賞も受賞されています。↓
地図 [避難地形時間地図(逃げ地図)] | 受賞対象一覧 | Good Design Award
全体のtweetが見たい方は、Twitterにてハッシュタグ「#nige-genron」を検索していただければ。もっと活動の全体を知りたい人は、@makawakamiさんによる逃げ地図についての一連のTwitterのまとめをどうぞ。→◇逃げ地図関連まとめ◇
レクチャーの感想
石川さん:逃げ地図は道路をメディアとして描かれている。逃げ地図3.0も同様。都市を道路を介したアクセス可能論に終始していることに対する議論は?羽鳥:今まさに議論しているところ。逃げ地図3.0の目指すモノを明確にしないと何を描くべきかもはっきりしない。 #nige_genron
— 谷口景一朗さん (@keiichirot) 2013年5月11日
会場に、来週18日のゲンロンカフェで講義が予定されている石川初さんがお見えになっていて、上記のような質問をキメられていましたが、地図に精通している石川さんらしい深いご意見だと思いました。
個人的には、「道路」に着目したことが非常によかったのではないかと考えました。
本当に緊急な事態ならば、農地や公園だけでなく人の家の敷地だって通って逃げればいいわけです。しかし写真からも分かる通り、津波リスクを調べる「逃げ地図1.0」では避難経路として「道路」を対象にしています。これは、道路が「個人の不可侵の領域」=「公共の資産」という現代の日本の都市システムの前提を利用していると考えられます。
逃げ地図のレクチャーでは「ワークショップ」を行うことが、逃げ地図の理解に繋がる以上にまちづくりの意識へ発展するなど、その重要性が語られていたように思いますが、これもまた「道路」という公共資産を前提にしている影響もあるのでしょう。自分が利用する、誰のものでもない都市の部分。
レクチャーはゲンロンカフェで行われたのですが、東さんが高円寺などの自由について書いていたことと少し繋がるのではないかと思いました。「道路は誰のものでもない」というテーゼは、それを元に実際の道路で何かをするというよりも、それを前提にした思考を行うことによるコミュニティの再考が可能である、という視点が興味深かったです。まちづくりを考える際に、必ずしも公共施設などを利用する必要がない、とも言えます。
逆に考えると、伊藤計劃氏のSF小説である「虐殺器官(AA)」にでてくるような、人を選別する都市交通システムが登場するような場合、その公共性と対立してしまいます。その点も含めて、都市システムの今後を考える上で、道路の、それがもたらす人の輸送能力だけでなく、公共資産としての側面に注目するのは面白いのではないでしょうか。
twitter実況まとめ
以下では、忘備録として自分のtweetをまとめています。
羽鳥さん登壇しました!
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥さんのプレゼン始まりました。日建設計の紹介から。東京が付く建物を多く設計してる会社です、とのことw
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
逃げ地図が示唆するもの。「新しい公共性」などなど3点。決められなかったことを決めるようにする。多人数での建設的な合意形成。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:普段設計している時には、避難通路などリスクを把握しながら行う。震災後の東北において、設計で培ったリスク管理を用いることで、住民の間で状況を把握できるようなものを作ろうとして始まったのが、逃げ地図です。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:まず、過去100年間の津波における浸水域を地図に重ね合わせる。そして次に避難の目的場所をワークショップを行ったりしながら決めていく。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:次に尺度を決める。人が歩く速度を色分けして表現。3分で避難場所に辿り着ける場所、6分で辿り着ける場所、と道を色分けして塗っていく。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:逃げ地図の色分けが完成すると、地図から様々な読み取りができるようになる。例えば、色分けに従って街に避難経路を明示する、などのアイデアが出てくる。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:他にも、行政により計画されているバイパス(逃げるための巨大な道)案や避難タワー案に適応することで、現状との比較により効果の測定ができる。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:建築を設計を提案するのは、具体化をする作業と言えるのだが、如何にして公開できる作業にするのか、ということを考えた時に、逃げ地図は非常に効果的な手法だったのだと思う。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:逃げ地図で重要なのがワークショップ。実は話を聞くだけでは始まらない。1時間くらい説明するよりも、何より実際に手を動かして色分けをすることで理解が深まる。また何より、現地に住んでいる人の持っている情報を引き出すことができる。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:仮設住宅で行うワークショップは、必ずしも快く受け入れてもらえるわけではない。まだ片付いてない街を横目に、街の未来について話したくない、という場合もある。そういう場合は逃げ地図を作る部分だけしか話をしないのだが、地図の作成を始めると自然と街の未来の話が始まる。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:地図と体感の違いもある。地図を作って実際に街を歩くと、時間的には最短ルートなのだが海に向かって歩くルートなどが見つかり、修正を行ったりする。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:街の議員とのやり取りを行う場合にも、逃げ地図を中心に意見交換が可能。街の中にある階級にただ従うことにはならない。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:ホンダとの連携。オープンソースの可能性。行政が業者に頼んで作成したリスクを計測した地図はこれまでも存在したが、オープンにはできなかった。住民が作成した地図ならばオープンにできる可能性が高い。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:鎌倉でもワークショップを行った。今後震災の可能性がある場所。逃げ地図を作ることで、住宅地に避難通路を作るようにお願いしたり、行政に整備費用を出してもらうための資料にしたりされた。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:逃げ地図で行ってきた情報の公開性が、建築設計ではどのように活かされているのか。(羽鳥さんが担当された)SONY大崎で説明。SONYの建物を設計する場合、関係者はこれまで紹介した集落の何倍の人数にもなる。その人達に納得してもらうための、情報の整理が必要。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:例えば、SONY大崎では建物によるヒートアイランド現象を緩和するために、建物のルーバー状の外壁に雨水を流すシステムを使っている。しかし、前例がなかったため、説得できるだけの資料を作成した。つまり、見えない温度の可視化。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:逃げ地図は津波のリスクと向き合う地図としてスタートしたが、他のリスクだってある。津波を心配していても、建物が古い木造で路地の中にあれば火事のリスクだって心配する必要がある。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:そこで逃げ地図3.0へ。様々なリスクを把握するフェイズに移っている。例えば火災リスク。火事の消化は、消防署だけによらず、消防車が通れる道の幅、消防車に積んであるホースの長さなど多くの要素が絡むが、それも同様に地図に色分けをしていく。まだ試作中。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:逃げ地図によりみんなで一緒に構想する対策というのは、道路を通す、タワーを作るなど、街に取って大きい提案。提案の役割を周りの住人と一緒に考えることで、コミュニティの意識を共有しながら街の変化を作っていけるツールになるのではないかと考えています。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:新しい公共性、新しい官と民の関係、これからのガバナンスのあり方を考えていけるツール。街並みはドラスティックにはなかなか変わらない。ただ、逃げ地図を作ることで目の前の風景に対する認識がガラリと変わる。目の前の風景と、その背後にあるリスクを同時に考えていける。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:景観としての鎌倉らしさと様々なリスクを同時に考えないと、路地をただ4m道路に変更することにしかならない。風景にリスクを重ね合わせ、街の損益を検討していかなければいけない。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
逃げ地図のニュースで放映された動画をみてます。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
ワークショップは動画でみるとわかりやすいですね。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
渡邉先生からの質問。人が手を使って始めたのが、人の目線が活かされていてよいと感じました。そんな中でwebで逃げ地図2.0を試していましたが、目的はどこに設定されていますか。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
羽鳥:道の変化を構想していく時に多くの人の意見を集めたい。webを使えばワークショップにも来れない人の意見も集められると思った。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
渡邉先生からの質問ふたつめ。逃げ地図を始めるのに必要な要素は?羽鳥:地図と鉛筆。ただ津波リスクは浸水域があるので地図を切り出しやすかった。3.0では街がどこまでもつながっているので切り出すのが難しい。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
石川初さんの、道路からリスクを想定することに対しての妥当性は?という他の部分には色がついていないことへの疑問と羽鳥さんの答えがよかった。道路はパブリックなものであるが故に、最初にリスクを想定してもおかしくない場所なんだろうな。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
あと、Tweetが間に合わなかったけど、羽鳥さんがワークショップに消防士や救急隊の人がきて欲しいって言っていたのが素晴らしいと思った。
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日
@_hatori_ 今日はたいへん勉強になるお話を聞かせていただいてありがとうございました!逃げ地図3.0はまた一段と難しい試みかと思いますが、その分また飛躍した転換が待っていると期待してます!
— siskwさん (@siskw) 2013年5月11日