横浜国立大学建築学科4年生によるフリーペーパー「Scrap & Build vol.1」

横浜国立大学建築学科4年、小泉瑛一と石塚直登によるフリーペーパー「Scrap & Build vol.1」(ブログはこちら)を頂きました。せっかく頂いたので感想を書きたいと思います。
彼らは他の仲間達と「Y-Pac」という団体を主催していて、web上で議論したりラジオを配信したりしています。

個人が情報を発信する、その意味をどこにとるのか。

フリーペーパーを見ていない人に対して批評を書くのは難しいので、ここでは「建築学科の学生の自主活動」から始めて、そこから「webやラジオ・フリーペーパーというメディア(媒体)を利用して個人が情報を発信すること」まで書ければいいなと思います。

建築学生による自主活動

建築の学生が活動を起こすことは特に珍しいことではなくて、僕の知っている範囲では、東京大学に在籍中の五十嵐太郎氏/南泰裕氏がコアメンバーであった「エディフィカーレ」(10+1web 書評「エディフィカーレ・リターンズ」)、東京理科大で菊池宏さんが友人達と始められた「しゅうまい」があります。しゅうまいは僕や僕より若い世代でもかなり影響を受けていて、web上でも最近はほとんど更新されていないのですが「Y-GSAしゅうまい」や「SHUMAI」というブログを見ることができます。実際、僕も大学2年生の後期に東工大の友人と早稲田大学の同学年の人たちで集まってワークショップを行っていましたし、以前紹介した「ジャンプスペース」のようなものを学園祭で作ることもしました。ただ、それらの活動というのは内輪で存在する物です。僕と僕の友人達の場合だと、自分たちが「建築」にどのように接するのか、課題や授業だけでは全然理解できない「建築」とは何か、ということに対して自発的に行っていた行動でした。
ただ、彼ら小泉君と石塚君の二人が本人達の意思・力量でこのようなフリーペーパーを創刊したことは、上に挙げた活動とは少し意味が異なると感じます。

自主活動を情報として発信する

自主活動はたいていの場合において閉じていて構わないものが多いです。もちろんエディフィカーレのように事後的にその活動が他者かに対して価値を持つ場合もあるのですが、基本的には自分たちの目的のために活動を行っています。ただ、webという気軽に情報発信ができるツールができて、自主活動においてもそれを利用する環境になりました。彼らの「Y-Pac」という団体も、彼らの自主活動を発表する場としてwebを利用している例になると思います。このような環境になると、自主活動でありながら、web上の他者の存在を認識するかどうか、という問題が出てきます。
webは主催者側の意図に関わらず、web上での扱われ方/注目度によってだいぶ印象が変わるツールです。身近な人にだけアドレスが知れ渡っていれば、またmixiのようにある承認というセキュリティが入れば日常の延長として利用されるでしょうし、一方、googleの検索結果に上位でヒットしたり新聞社のホームページやニュースサイトに取り上げられたりすれば、同じサイトでも一気に見知らぬ他人の人たちから注目を集めるものになります。
つまり、これまで行われてきた自主活動とは異なり、webを利用した活動には他者を意識して発表するというフェイズが加わっていると考えます。「何をテーマに」「どのようなことを行ってきたのか」ということを「誰を対象に」届けたいのか、ということを明確にして、自分たちの活動をweb上に発表していくことが、以前に行われていた自主活動より、建築学生だけではない人たちを巻き込んだ、大きな盛り上がりを得ることにつながると思います。

ブログはマニフェスト

勝手に引用して申し訳ないのですが、藤村龍至氏の言葉を引用させていただきます。藤村龍至氏はたいていイベントを行った時に、段上から学生に対してブログでコメントを書くようにお願いする発言をします。以前、そのことを質問した時に「ブログはマニフェストだ」とおっしゃっていたことが、僕の印象に強く残っています。
もちろん、この言葉はweb上に存在するブログの全てがマニフェストだと言っているわけではありません。web上には個人の日記や役所のような公共なものまで玉石混合で存在しています。ただwebは使い方によっては、「建築」に対して向かい合っている学生の活動/意見を、直接に社会に対して届けることができるすごく有用なツールなのです。

媒体に何を求めるのか

彼らはwebで各自がブログを書くこと、グループで写真やGooglemapを使って考えること、建築/アート/本といった作品の批評をすること、ラジオを収録してpod-castとして配信することといった様々な媒体を駆使して活動を行っています。そして今回、彼らはフリーペーパー=紙という「物体」としてメディアを使うことに挑戦しました。僕はその扱う媒体の多様性が彼らの特徴なのだと思います。
僕たちが情報を発信するとき、それぞれの媒体によってできること/できないことに違いがありますし、それぞれの媒体にある背景/歴史も異なっています。媒体を選択する時、その違いにより自分の立場をどのように明確にすることができるのかを常に考えながら、僕は今後もブログを書いたりtwitterで実況していきたいし、小泉君と石塚君の立場を読み取っていけたらいいなと思いました。