もはやユーザー満足度では分からないことを設計に組込む必要があるよね、という話

最近このブログで取り上げている問題は「ユーザー保護のために事業者側でサービス設計に組み込んでおくべきシステムの問題」と括ることができる。

サービス設計が適切に行われている例

  • minneで食品の取り扱いを開始。
    minneで食品のお取り扱いがはじまります!(4月12日更新) | ハンドメイド、手作り作品の通販 minne(ミンネ)
    • ハンドメイド製品をユーザーどうしで売買できる通販サービスの「minne」で食品の取り扱いが始まった。
    • 食品の安全性の担保のため、販売者には身分証の提示と食品販売に必要な許可証等の所持の確認が必要。
    • 事業者としては、販売者をアクセサリなどと同じ資格で運用する方がユーザーも増えるしシステムの実装コストも下がるため利益になるが、ユーザーの安全性を担保することを優先しているように見受けられて素晴らしい。

サービス設計が適切ではなく、行政から指導が入った例

  • LINE POPのアイテム(宝箱の鍵)が資金決済法の前払式支払手段の「サーバ型電子マネー」に当たると関東財務局に認定。
    ITpro Report - 収益化競争が生んだ「2次通貨」、なぜLINEアプリの一部アイテムは電子マネーとみなされたのか:ITpro
    • ソーシャルゲームなどでゲーム内ポイントを購入した場合、ユーザーはお金を使用したため返金できないように感じているかもしれないが、それは大きな誤解。
    • ゲーム内ポイントはゲーム内で利用するためにお金を一時的にポイントに変換しただけであり、その時点ではユーザーの資産である。法的にはポイントをアイテムと交換して始めて資産を消費したとみなされる。
    • 例えばゲームサービスが終了した際に未使用のポイントが残っていたとすれば、ユーザーはその分の返金を請求することが可能。
    • 「宝箱の鍵」は資金決済法的にはグレーゾーンだとこれまで言われていたが、グレーゾーンであったとしても事業者がユーザー資産を保護するために何か対策を取っていたなら行政指導に発展しなかったのではと思われる。
    • 資金決済法とゲームについて詳しい解説はこちら↓
      資金決済法/サービス終了時の払い戻しに関する法律

万が一の事態を想定してサービスを評価するユーザーはいない

ソーシャルゲームとUXの記事でも書いたが、サービスの使いやすさ(ユーザビリティ)のような問題は、ユーザーの利益と事業者の利益が一致しているため事業者側も対応しやすい。一方で例に挙げた「万が一の事態にサービスはどうあるべきか」という問題は事業者に敬遠されがちである。
問題が起きた後に被害にあったユーザに個別で対応する形になってしまったり、ひどい場合ではサービス規約で事業者の責任ではないと謳い対応すら行われない事例が散見される。

当たり前のことだが、万が一の事態に遭遇するユーザーはサービス利用者の中の一部だ。つまりユーザーテストを行いサービス方針を決めても、それでは解決できない問題が多くあるということだ。ユーザー満足度とユーザー保護は別のレイヤーで設計されなければいけない
※万が一の事態が起きた場合はユーザーの保護は事業者の利益となる

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事業者の暴走を抑制する仕組みとしての「法」

「ユーザーの保護」「ユーザーの安全度」という言葉は、必ずしも身体の危険から守るという意味だけではない。上記のLINE POPの問題のようなユーザー資産の保護や、ユーザーの意図しないお金の使い過ぎを防ぐことも、行政からは事業者の責任と考えられる。

「ゲームのアイテムはいくら利用しようともサービス終了時に無くなるものだ」
「ソシャゲのガチャにハマってお金を使うのはユーザーの自己責任だ」
このような風潮は今では当然だと考えられているかもしれないが、業界の市場規模が大きくなり問題が取り上げられることが多くなるほど「法律」で規制される可能性が高いことを忘れないようにしたい。

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「事業者のモラルに頼る」 or 「法で規制」しか選択肢がないのか?

事業者は利益を追求したい。しかしユーザーは保護されるべきである。この場合「事業者のモラルに頼る」のか「法で規制する」しか方法はないのだろうか。

AirbnbやUberなど、ITで起きている問題の幾つかは、事業者が「既存の法律の枠組みでは判断できないからグレー」という判断をしていることによって起きている。これらに対応するため各業界の法律を更新していたらキリがない。
またITは技術の進化の速度が速いため、法のような堅い手続きでは間に合わないという指摘もあるだろう。

建築設計の仕事をしていた自分としては「設計」と「製作」を分離したり、ユーザーの規模ごとに分けてプロダクトを監理することで、これらの問題に対応できるのではないかと考えている。この辺りのアイデアはまた時間がある時にまとめたい。