最近の建築を取り巻く状況についての考察 その3:(アトリエ・ワン,みかんぐみ)論

その1 :「フラット」とは
その2 :ユニット派論争から現在までの流れ
番外編1:こたつ問題
2の補足:


現在の状況を考えるには、前を知らなければいけないと思います。2の補足で紹介した五十嵐氏の文章「グローバリズムのアイコン化に抗して」には、以下のような記述があります。

アトリエ・ワンは、上の世代の「先生」と呼ばれるスタンドカラーの建築家イメージとはかけ離れたカジュアルないでたちで登場した。通常、日本の都市や住宅地は悪い条件だと思われているが、それをポジティヴに読みかえるのが、彼らのやり方だ。みかんぐみは施主とじっくりと話しあい、できるだけ多くの条件を飽和させて設計を行なう。そして非作家的なデザインを提唱し、話題を呼んだ。また建築を特権化せず、家具やクルマと同じ地平に置いて考える。戦後に量産された団地を当たり前の風景とした世代ゆえに、それを批判するのではなく、残していくためのリノベーションのアイデア集も出版した。

この章では、その塚本由晴(アトリエ・ワン)と曽我部昌史(みかんぐみ)についての考察を中心とします。(作品についてのヴィジュアル的補足は、新建築社の雑誌*1、または各建築家のHPを参考にして下さい)
Atelier Bow-Wow みかんぐみウェブサイト

アトリエ・ワン論

塚本由晴氏は第一線で活躍される建築家ですが、大きく分けて二つの活動があると思います。ひとつは設計活動でもうひとつは執筆活動です。特に後者は「メイド・イン・トーキョー」「ペット・アーキテクチャー」「ビヘイビオロジー」「ヴォイドメタボリズム」といった、大学の研究室でリサーチをすることによって得られた資料を元に建築論を組立てる作業です。そして、それらはアトリエ・ワンを説明する時に相互に補完するものになります。例えば、ペット・アーキテクチャーでは都市の中の隙間や狭い敷地に佇む構築物を集めますが、その一方で「アニハウス」(jt9802)では周囲から等価に距離を取るという配置の問題によって都市の隙間をなくす、といった操作をします。近作の「ポニー・ガーデン」(jt0904)においては、一見ポニーという存在に目を奪われがちですが、「ロッジアについての研究」(ja71-リサーチの方法)という設計の下地があります。少し説明を省略しますが、以下に幾つか特徴的な例を挙げます。
・「ガエハウス」(jt0310)・・・・・庇の取り扱い。
・「ガク・ハウス」(jt0601)・・・・家具単位に部屋を細分化。
・「スウェー・ハウス」(jt0810)・・天空率を形態に落とし込む。
・「生島文庫」(jt0811)・・・・・・旗竿敷地に対する配置の問題。
例を挙げればきりがありませんが、このように塚本氏は都市の環境以外にもかなりいろいろな事象を明快に設計に組込んで行きます。「振舞学(ビヘイビオロジー)」を提唱することで、設計の「何を」という対象が都市を超えてかなり広い範囲に渡っており、一言で括れなくなっています。そこで考え方を逆転させて「何のために」それらの対象を用いるのかに着目しますと、ポニーや本といった表立って取り扱うテーマを、「配置」「形態」「室の配列構成やスケール」「屋根や庇といった部位」という建築の操作できる問題にできるだけシンプルに対応させようとしているのではと考えられるのです。言い方を変えると、実社会の事象を建築の問題に取り込もうとする行為、または建築の境界を慎重に広げて行く行為ということができると思います。

みかんぐみ

塚本氏を上記のように、事象を建築の問題に引き寄せる建築家と位置づけると、曽我部氏はその反対に位置づくのではないかと予想できます。以下に特徴的な作品を挙げます。
・京急高架下文化芸術活動スタジオ(SD Review 2008 朝倉賞)・・・曽我部研究室による街づくり参加事例。
また、曽我部氏のブログでも氏の活動を見ることができます。名古屋で子供たちと小劇場を作るワークショップを行ったようです。
・四季の桜・・・・・電通デザインタンクとの共同。
・団地再生計画・・・団地を変えるためのアイデア集。
地震EXPO・・・デザインコンテストを行い審査員を曽我部氏が務める。
MOS Mikan Online Shopping・・・HP内で通販を手がける。
これらの活動は、必ずしも建物の設計だけではなくワークショップなど通常、建築の思考とは触れ合わない人々との共同作業になります。そこには、一見は建築の雑誌などで語られてるような作家的な建築の主題は見られません。しかし、世俗的な様々な要素をそぎ落として注視してみると、例えばブログで見ることができる名古屋のワークショップの例では、小学生の間でコンペを行うなどといった、そこに建築的な要素(行為)が見えてきます。つまり塚本氏に対して、実社会に飛び込んで建築行為を行おうとする行為、または実社会に建築の芽を植え付けようとする行為ということになると思います。

「状況」に対する「原理」とは

上に挙げた両氏の行為は、クライアント、予算、法規などといった様々な条件がある現実社会=状況で、必ずしもわかりやすく見えてくるものではありません。上記のようにうまく表現できる例もあれば建築家の意図通りいかない例もあると思います。しかし、そのような中でも建築家たちは建築的な試み実践しようとしており、その格闘を読み取ろうとする姿勢が学ぶ立場としては必要なのだと考えます。


今回は「状況」と「建築」の関係の話と言えます。次回では、五十嵐氏のいう「原理」と「建築」の関係について考えてみたいと思います。


   

*1:新建築=sk、住宅特集=jtと訳す。数字は年・月を表す